北大水産科学研究院 海洋生物学分野 魚類体系学について

私たちの研究室で行っていることは……

 私たちの研究室では、「魚類の種多様性」を探求するフィールド・サイエンスとして、「形態学を基盤とした魚類の体系学」に関する教育・研究を行っています。「体系学」とは、広い意味では分類学、系統学、進化学、生物地理学、古生物学などを含む学問分野ですが、これらのうち系統分類学を最も得意としています。
(私たちの研究業績は「Achievement」からご覧頂けます)

魚類の種多様性 (species diversity) とは?

 魚類は、最初に現れた脊椎動物として5.5億年以上の進化の歴史をもち、現生種だけでも約34,000種以上が知られており、その数は脊椎動物全体の約半分に相当します。魚類の生息域は、地球の表面積の約70%を占める水圏にほぼ隈なく拡がっています。魚類は、その進化の過程で、それぞれの種に独特な生命活動のスタイルをもつようになりました。たとえば、それは種ごとに異なる体形や習性であったり、ニッチやDNAの塩基配列であったりします。このような、それぞれの種が示す独自性とその進化的な由来の総体を「種多様性」といいます。
 魚類の種多様性は、形態、生態、発生、生理、遺伝、進化などの生物学のあらゆる観点から研究されてきており、種独自のさまざまな知見が集積されてきています。しかし、私たちが知り得ていない生物多様性の不思議が、まだ無数に隠されていることも確かです。たとえば、毎年、世界で数百の“新種”の魚類が発見されています。つまり、水圏にはまだ“名もない魚”がたくさんいて、私たちに気づかれることなく、地球のどこかで生き続けているのです。そしてこれらの魚類も水圏生態系の構成要素として何らかの位置をしめています。水圏生態系を真に理解するためには、これらの無数の謎をひとつひとつ解明しなければなりません。そして、そのひとつひとつが私たちの研究テーマなのです。

系統分類学とは?

 系統分類学とは、私たちが自然界の生物種 (species) をそれぞれの種の特性と進化の道筋に則して認識するため学問です。認識された種には“学名”が与えられ、その種の特徴が“分類形質”として示されます。
 種の集まりである属 (genus)、そして属の集まりである科 (family) などの分類群は、同じ共通祖先から進化(派生)してきた全ての子孫種を含むのが理想的です(このようなグループを単系統群monophyletic groupと言います)。分類群が単系統群であるかを調べるには、系統解析を行って系統類縁関係を推定します。そして、得られた類縁関係に基づき、単系統群に対して適切な名前(分類群名。これも学名です)を与え、分類体系を提示します。系統解析によって、各分類群の特徴(分類形質)も明らかになります。さらに、それぞれの分類群について進化学的な考察を行います。
 このように、系統分類学は、進化を考慮しながら、生物種や分類群を正しく認識し、その名前(学名)を確定するとともに、これらを確実に分類するための分類形質を見つけ出す学問分野なのです。

水産科学における系統分類学の意義

 水産科学は、水圏の生物多様性の保全を前提として、水圏の生物資源を持続的かつ効率的に活用する理論と方法を研究する総合科学です。そのためには、水圏生態系の構成する生物や環境についての多種多様な情報を集積して、水圏生物のさまざまな特性を知ることが必須になります。生物情報としてまず求められものは、正しく分類された生物種の学名です。なぜなら、世界に向けて発信する水産科学の研究成果や情報では、生物種の名前を万国共通名=学名で表すからです。つまり、“種”が解らなければ水産科学の研究を始めることができないとも言えます。
 上述の通り、系統分類学は、生物種や分類群を正しく認識し、その名前(学名)を確定する学問であり、これらを確実に分類するための分類形質を見つけ出す学問でもあります。さらに、分類体系あるいは系統・進化学的考察は、生物種を保全していくための重要なガイドラインやガイドマップとなります。
 このように、系統分類学は、水産科学研究の基盤をなすきわめて重要な学問のひとつなのです。

学術標本を用いて教育・研究を行っています

 私たちの教育・研究材料は学術標本です。これらの標本は研究の再現性を保証するため、半永久的な維持管理が望まれます。函館キャンパスには総合博物館の分館施設である水産科学館が配備され、附属施設の水産生物標本館には23万点を超える魚類標本(HUMZコレクション)が所蔵されています。これらの標本群の維持管理は総合博物館専任教員が中心となって行っていますが、当研究室の学生もボランティアスタッフとして各種作業に参加しています。将来、自然史系の研究者・学芸員を目指す学生にとっては、学術標本の管理に関する実践的なスキルを身に付けられる絶好の環境とも言えます。

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